2012年4月20日金曜日

Alexander Brandon MODMusic Deus Exまで


SirenことAlexander Brandon氏はモダンビデオゲームミュージック史において、やや特殊な人物であろう、彼もまたDemo/MusicDiskシーンとは切り離せぬ作曲家である。


1974年、アメリカはオハイオに生まれたBrandonは10代の頃、初期のAd Lib社製SMC(Music Synthesizer Card)を搭載したAmigaによる音楽作りから始まり、すぐに黎明期のトラッカーミュージックシーンへと触れていく。当初Protrackerを使用していたが、Amigaの低迷によりIBM-PCへ移行すると、Future Clew謹製Scream Trackerを選んだ。Scream Trackerの開発アップデートが終わった90年代中頃から、Epic Games(当時はEpic Megagames)にてプロのコンポーザーとして働く傍ら、Demoグループのコンポーザーとしてシーンにも作品を発表していく。95年にはBass Productionsというグループにて、当初Chromatic Dragonというけったいな名前でDemoを多数リリースしている。また同時期のEpicではTyrianという縦スクロールのShoot'em upにて音楽を提供、残念ながらフロッピーの容量(CDリリースもあるが内容は同じ)に合わせてか、収録された音楽はmidiフォーマットとなっている。


96年、野心的なワールドワイドMusicDiskグループ、Kosmic Free Music Foundationに参加。KFMFは世界中のアーティストをインターネットをベースに召集し、Disk(フロッピー)サイズ、いわゆるメガデモの形式で発信するグループで、作品は多くのハッカー技術自慢的Demoとはやや趣向の異なる(当時のひ弱なインターネット回線でも取り扱えるサイズの)ミュージックビデオという体裁でリリースされた。

Sandman名義でのKFMFリリースNightvision

↑のNightvisionは、後の98年、EpicのUnrealにほぼ同じものが流用される。というのもUnrealのサウンドエンジン(Galaxy Sound Engine)はProtracker/MODの派生であるScream Tracker3、ライバルFasttracker2(開発は後にStarbreeze~Machinegamesを立ち上げるTritonのVogueだ!)、Impulse Tracker等の各モジュールに対する互換性があり、Unrealエンジンの標準音楽ファイルであるUMXはシーケンサとサンプラーを内包した自由度の高いMODなのだ。ご存知の通りUnrealエンジンは非常にModification志向なエンジンで、エディタ標準搭載で本編のリソースを改変する事も容易なのだが、実は音楽(UMX)もトラッカーベースなので、OpenMPTなどを用いて展開すると、どういったサンプルを、どう配置して使っているのか丸分かりなのである。作曲家の手の内を丸裸にするトンでもない仕様である。


98年リリースのEpic開発2Dプラットフォーマー
Jazz Jackrabbit2よりメニュー音楽


98年のJazz Jackrabbit2で遂にBrandonの本領が発揮される。メディアは完全にCDに移行し、トラッカーをフル活用した極上のMODミュージックが堪能できる。CD Audioを使う所も多い中でもBrandonはあえてMODにこだわり、8khz/8bitの低品質WAVEサンプル(↑のJJ2テーマは一部の声ネタやピアノ音に高品質なサンプルを使用しているが)を切り貼りした1MB以下のハイクオリティVGMをCDAでは実現できない量ブチ込んでいるのだ、MOD最高!


ご存知Epicの看板タイトルUnreal
城とロケットは長い間PCベンチマークの指標となった。


同98年のUnrealはオランダのMichiel van den Bosとの共作となった。↑のタイトル画面のテーマ曲には2人の名前がクレジットされている。2つの太陽が地表を照らす神秘の惑星Na Pali、原生人による古代の建造物と宇宙からの侵略者のSci-fiロケーションの対比をどちらも美しく、そしてとんでもない重さで描いた90年代PCゲームの金字塔、CDAにもエンジン自体は対応しているものの、全編Impule Trackerベースの環境をフル活用した荘厳なシンセサウンドを聴かせてくれる。JJ2に比べると高レートのサンプリングが多め。さぁそんなサントラCDなんて放って早くモジュールをトラッカーで再生しよう!


翌99年のUnreal Tournamentも同じくBrandon/van den Bosのコンビ仕事が続く。リリース当初、超激重ゲームとして並の自作派でも狂気に陥りかねなかったUnrealエンジンも1年2年と過ぎれば、ハードの進化で楽々動作、既にむしろ軽い部類になり、過去の悪夢として人々の記憶から追いやれつつあった…そんな折、Epicから離れたテキサスはオースティンの地、Tom Hall/John Romeroの元id Software離脱組の2人によって誕生したIon Stormの分社(本社はダラス)からのマスターピース、Voodoo5を買った事を後悔しないとすれば、それはこのゲームがあったからDeus Exの登場だ。


このタイトルテーマはBrandonの一人仕事。
ちなみにUMXモジュール内にはメッセージが隠されている…
What is your cause, and who do you obey?



2000年のDeus Exもまた、Michiel van den Bosとの共作である。Unreal Tournamentから続投でBrandonが設立したStraylight ProductionsよりBasehead(デモシーン出身の創設メンバー)も参加。クレジットにはないが、例の第4のエンディングことDanceで流れる音楽のサンプルなどからNecros(Straylight Productionsのもう一人の創設時メンバー、この人もやっぱりデモシーン出身)の名前が確認できる。まぁゲームが当時重かったとかはどうでもよくて、この極上のVGMに耳を傾けて欲しい。サンプリングも、これまでと比較して高レートで、1曲辺りファイルサイズも1.5~2MBくらいになっており、MP3とかあるし、もう容量的なメリットってそんなないんじゃ…感を既に漂わせている。ちなみにGame of the Year Editionに付属するサントラCDは全曲、完全新録の別バージョン、MODも聴けてCDAも聴けるんだから一粒で二度おいしい。



Unreal Engine1の現役引退に伴いMODをそのまま収録するようなVGMはPCゲームに限れば、ほぼ消滅したと言っていいだろう。コンポーザ志望者がモジュールを開いて作曲家のテクニックや音ネタを参考にする…というかパクって楽しむ時代はゼロ年代には終わったのだ。もちろん、その後もBrandonはVGM業界で活躍していくので心配はいらないし、非VGM作品も大変すばらしいのだ、だけどMOD/Tracker Musicシーンに非常に近いフィールドにビデオゲームが存在していたあの瞬間を思い起こせば、少しばかり僕は感傷的になってしまうんだ。


参考:


(リッピングしたMODやインタビュー等がアーカイブされたファンサイト)

(Mobygames)

(そもそもMODってなんやねんって人へ)

ugh