2012年3月15日木曜日

ホワイトデー 学園という名の迷宮

1日遅れですが、たまにはこういう季節(?)ネタも。
もう既に散々ココが変だよ日本人的グローバルあるあるでお馴染みとなりましたが、ホワイトデーという文化は日本に端を発した極東の奇習なのですね。この妙な消化試合的イベントを日本人以外で共有できるのは海を隔てたお隣、韓国と台湾くらいなもんで、他の(主にキリスト教)文化圏の人間にこのヴァレンタインデーからの一連の奇習を説明するとまぁ大抵とても変な顔をされるのですね。



今回紹介する「ホワイトデー 学園という名の迷宮」(原題:화이트데이: 학교라는 이름의 미궁)は、タイトルそのものズバリ、極東の奇習をテーマにした韓国産のFPP(First Person Perspective = 一人称視点)型ホラーADVで、大変エスニックな一品ながら、日本人なら少なからずシンパシーを感じるだろう実に印象的な作品です。



オリジナルリリース2001年、開発はSonnori。このSonnoriという会社の歴史は割と古く、IBM-PC(Dos)時代の94年に純韓国産の国民的RPG、Astonishia Storyをリリースして以来、このホワイトデーがリリースされた2001年まで数少ない韓国のリテール販売型PCゲーム開発のトップに君臨した由緒正しきデベロッパなのです…そう、ご存知の通り韓国は海賊(Warez)問題によりリテールパッケージモデルを捨て、PCゲーム業界は国民的外資系ビデオゲーム企業ブリザード様のような極一部の特例を除いて、いわゆる"ネットゲーム型"に急速にシフトしていく。名門SonnoriがWarez問題によってリテールモデルを捨てる決断に遂に至ったのは、本作の評価とは裏腹な販売本数、違法ダウンロードが原因と思われる商業的失敗であったとされている。


ちなみに、その後SonnnoriはトリックスターなどMMO、ポータルサイト向け対戦ゲームをコンスタントにリリースしつつ主要スタッフはNtreev Softという新会社に移る形で分裂する。こちらでは代表作パンヤのスマッシュヒット、コンソール展開により奇しくもリテールパッケージに寄り道するような形で近年は戻ったりもしたようだ。(拡張子nopのパッケージなど、ホワイトデーとパンヤにもなんらかしら共通部分が見えるのが興味深い)



ゲームの舞台は韓国の高校、ホワイトデーの前日に気になるあの子の机にお菓子を置きに夜の学校に忍び込んだ主人公(ボンクラ)だったが、意中のあの子を含む3人の女の子と一緒に閉じ込められてしまう。バットを持って校内を徘徊する狂った用務員のおっさんから逃げながら、立て続けに起こる学校の怪談的霊現象を陰陽五行/風水の力で解決し、最終的には3人の女の子のいずれかと仲良くなって学校を脱出するのが目的。ホラーにギャルゲー的アクセントを加味した絶妙な匙加減はさすが老舗である。


ゲームは通常のFPSのように3Dフィールドを歩きまわれるようになっており、オブジェクトに対するインタラクト/パズル、必要なアイテムの発見/使用によって進行し、都度挟まれる3人の女子との会話によって展開が変わってくる。前述の狂った用務員のおっさんから走って逃げたり、物影に隠れるなど一般的な戦闘パートこそないが、割とシビアなパニックモノ(©ヒューマン)的ゲームプレイだ。あえて既存のもので例えて言うならエコーナイトにトワイライトシンドロームとクロックタワーを混ぜたようなゲームとでも言おうか。古い木造校舎の序盤から、コンクリ造りの近代的な新校舎パートとロケーションが途中で移るのだが、どれも現実の建造物をモデルに丹念にロケーションしたのだろう、ディスク内のボーナスコンテンツに実際の取材写真と思しきデータからも分かる通り、とても出来が良い。

なによりその場所に本当にいるような精密なディティールは目を見張るものがあり、マウスボタンによるインタラクトでオブジェクト/プロップは細かく動作。ロッカー、机、引き出しなど細かく開閉できたり、木の扉や鉄扉などを動かした際の質感による音の違いなど丁寧に一つ一つ用意されている。パチパチとなる切れかけた蛍光灯、手洗い場やトイレなど水場の近くに来た際のわずかなポチャ…ポチャとなる水音など夜の学校アンビエントの懲り方は、プレイヤーの原体験を抉り、特別そこだけ軋む木の廊下を踏んだ時、立て看板に蹴躓いた時、そのどちらでも僕は背筋に走る悪寒に感動すら覚えた。


オールドスクールな女の泣き声、足音しかしない幽霊(?)、日本の学校と殆ど変わらぬ、まさに等身大のロケーションに、やはり日本の怪談話と殆ど変わらぬ怪異達が待っている。風水の悪しき場所(幽霊や災難を呼びよこしてしまう立地)だったが故に起こった現象というギミックも日本人の多くが共有するネイティブなスピリチュアル感覚を共鳴させる。いやいやそんなこと言わずとも見てくれ、この和式便座(↓)を。これで原体験を呼び起こされぬ日本人がいるだろうか?



テーマ曲の미궁(迷宮)など、ストリングス(カヤグムという韓国の伝統弦楽器らしい)をフィーチャーした聴く者を不安にする神経質なサウンドは音楽家황병기(ファン・ビョンギ)によるもので、ゲームの為に書き下ろされたわけではなく、氏のこれまでの作品からの抜粋されたものらしいのだが、これも実に素晴らしく、本作を耳と目、恐怖によって関連付ける。

曲が始まるのは1分20秒くらいから。


本作は2004年頃に英国の販社(リリース後、即倒産)のオファーにより英語版が作られたらしいのだが、今入手するのは大変難しいと思われる。僕の購入した韓国で現在も出回っているジュエルケース版はハングルのみ、日本語Windowsにて動作させるには、Microsoft AppLocale Utility必須とハードルが高いのだが…昨年、20세기말의 여행자(20世紀旅行)氏が素晴らしい日本語パッチを作成した事により、現在は日本人に限り、言語面では大変遊びやすい環境となったのだった。あぁ、本当にありがとうございます。ホワイトデーに乾杯。


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ugh