2016年5月16日月曜日

電話を捨てたいけど捨てられない


数年ほど前まで小滝橋通りに部屋を借りていて、その契約の際に連絡先の固定電話番号を書いてくれと言われてちょっとだけ揉めた事がある。当時、僕は固定電話回線を切ってDDIのPHSだけを連絡先にしていて、そしたら「それじゃあ信用に足らない、固定電話の番号を教えてくれ。え?持ってない?じゃあ固定電話に契約してからきてくれ」というようなめちゃくちゃな事を言われて口論になったのだ。

無造作にランダムなタイミングでかかる得体の知れないセールスか、一意のタイミングで顔の知ったご近所さんから公明党への投票を求められるだけのレガシーなスパム受信装置と、民間に下った電電公社への支払い実績が一体何の信用を僕に付してくれるか分からなかったが、先方はそれを大層崇めているようだった。


ところで先日、僕はまたしても仕事を辞め、餓鬼のような目をして3か月後に支給される雇用保険の受給を指折り数えて待っていた。人は3か月何も食わないでいると大抵は死ぬし、何も食わない人とは大抵は死んでいる人だ。なので生ける屍、健やかなゾンビーたる僕はコレクションを売り払う事で当面の生活費を捻出し、ついでにOverwatchをやりたいのでパソコンを新調し(グラフィックボードはクレクレして譲ってもらい、OWのアーリーアクセス権もクレクレしてやさしい人に譲ってもらった)、使用5年目に突入するiphone4sも大中華の掌に余るミッドレンジファブレットへ新調していた。

Overwatch楽しかったね
この小さなインカムと致命的な散財で生きながらえるという方針を打ち出す過程で、携帯キャリアの呪縛から解放されたので、これまで半ば仕方なく継続していた電話機能に関する契約を切って、4Gデータ通信だけの契約に切り替えることにした。どうしてもレガシー規格で連絡をしたいという事になったらオンライン番号(旧skype in/out)でまかなおう、電話なんていらんのじゃい、これで月額1000円切りだ。断捨離大成功、ダットライフハック。GoogleとQQと、あとはFacebookとかLineとかそこらがあればなんとかなる…と思っていたのだけど、これらのオンラインサービスが本人認証としてご丁寧にオンライン番号を弾いた上で電話回線を通じたやりとりを要求してくるとは思いもしなかった。

スマートで先進的なIT企業各社が個人を特定する最小単位はキャリアへの支払い実績に過ぎなかったのである。実際に国内で格安SIMと呼ばれている叩き売り系通信キャリアはこの状況を見越してSMSのみをオプションで提供している。FacebookやLineのような電話認証を求めるソーシャルネットワーキングサービスの為の歪な隙間商売である、ソーシャルネットディストーション、マイク・ネスである。

ところでBattle.netやSteamのモバイル認証を設定している人は結構多いと思うのだけども、Valve(Steam)の場合、彼らのアンチチート機能VACは、チートを検出すると同じ電話番号で紐づいたアカウントを一斉にBanするように先月の末頃に仕様が変更された。

PunkBuster
2000年にPunkbusterというアンチチートプログラムがHalf-Life用の外部機能として登場し、blizzardも具体的な名前はないと思うのだけどDiablo2の途中ぐらいから似たようなコンセプトのアンチチート機能を実装し、今日までこの分野はそれなりの成長をしてきたと思う。当初これらは使用されているCD-KEY、使用されたPCのハードウェア構成を元にした一意のIDをBanしていた。

以前からここで書いてきたが、西側ではパーソナルコンピュータは文字通りパーソナルに個人が1対1に近い関係で大抵は使われていたが、日本以外のアジア地域などではパーソナルコンピュータは広く業務用としてパブリックに不特定多数の人に向けて時間貸しで提供されていた、ネットカフェとかPC房とかいうやつである。よってPunkbuster式のハードウェアに紐づけたBANはチーター個人に対する制裁として正しく機能していなかったという過去がある。

店のパソコンにインストールされているQuake3でどこぞの輩がチートを使用したとすると、そのCD-Keyは使えなくなり、該当のPCはCD-Keyを変更しても以降遊べなくなってしまう。これでは制裁を受けるべきその輩はなんの痛手もなく逃げおおせて、店舗にだけ被害が生じてしまうという欠陥構造である。対してプレイヤー個人に対するアカウントを発行し、クライアントプログラムを無償で提供した韓国式のF2Pゲームはその問題に対する一つの解決法と言える。この場合、必要に応じてチーター個人をBANするだけで店舗のソフトウェア資産が損なわれる事は一切ない。

現在のSteam及びVACはそれらの機構に倣っているが、韓国の住民登録番号や中国の公民身分番号を一意のIDとするのではなく、電話番号を用いてる。それが真に正しいのか判断できる事ではないのだけど、僕が思うよりキャリアへの支払い実績は僕を強力にアイデンティファイするのだと少なくない人は考えているようである。


遮光布を閉めたワンルームの暗がりの中では、僕の輪郭を浮かび上がらせるのは亀裂の入ったiphoneのディスプレイから漏れるあかりが唯一であったが、インターネットの混沌の黒の中では人は対象に指先を触れる事すらままならず、もはやグーグルもテンセントも照らさない道を電話回線はいまだにはっきりとして示してくれるのだと思い込むほかなかったのだ。

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ugh