2012年1月25日水曜日

マリオカートをパクった男達 Wacky Wheels & Skunny Kart

前回のDopefish記事の際にほんの少し触れたWacky WheelsというDos用マリオカートクローンゲームについての誰得記事。90年代のUSオブスキュアインディペンデントゲーム開発会社の知られざる歴史ということで一つ。
Wacky Wheelsはスーパーマリオカートにインスピレーションを得たAndy Edwardson氏が…いやこの言い方はあまり正しくないな。Mode7に対する技術的興味(とあわよくばそれが金にならないかという思い)から、スーパーマリオカートを参考にAndy Edwardson氏が趣味の延長線上ではじめた個人的なプロジェクトでした。氏は当時Copysoftという低予算のPC用カートゥーンアクションゲームメーカーでの開発に従事しており、その合間を縫っての製作でしたが、数週間してエンジンの骨組みを一人で組み上げると、もう一人の中心開発者であるShaun Gadalla氏がグラフィックを用意しプロトタイプが完成します、これがWacky Kartです。


Mode7(スーファミの回転/拡大/縮小機能)がないPCで、オリジナルに近い高速描画を行っているのは実は凄い事なんですよ。




このまま馴染みのあるCopysoftと商業契約し、製品用にブラッシュアップした後リリースとなるかと思いきや、パソコン通信に上げたSSから評判を嗅ぎつけたApogeeの社長が土壇場でヘッドハンティング、有能なAndy/Shaun氏を引き抜くような形で「Apogeeでもっと金を出すから一緒に一儲けしたろうぜ」と声をかけてきたのでした。大手からの好条件はAndy氏にとっても願ったり叶ったりで二つ返事でそれを受けたのでした。実際ApogeeからのWacky WheelsはWacky Kartから多くの要素がブラッシュアップされています、最も大きいのはサウンドエンジンの改良で、これはApogeeのJim Dose氏の協力を経て完全に置き換わったものらしく、サウンドエフェクト/BGMは相当洗練されています。またモデムでのネットプレイ(当時のDoom人気からテスターからの要望は最も多かったそうだ)も計画されていたそうですが、最終的に製品版ではボツになったようです。またAndy氏は当時を振り返り、カーマックの書いたDoomのネットコードがいかに驚異的であったか、そしてApogeeの契約していた電話回線がいかに貧弱でテストは困難を極めていたと後に語っています。



製品版のゲームプレイ、コース図といったインターフェイス系もまとまり、サウンドエフェクトは路面とタイヤが擦れる音やカート同士の接触音等フィードバック系を中心に大幅に改良がされている。プロトタイプでは反重力ビークルが僅かに地面から浮いて動いてるような気色悪さがあったが、タイヤから出る土煙、ボブ(キャラクターの揺れ)やSEの組み合わせでカートがドコドコ走ってる感じがよく出ている。ちなみに件のDopefishは3D Realmsの顔ことJoe Siegler氏(Rise of the TriadではTomの片腕としてマップデザインを手がけた、dopefish.comの中の人でもある)による口利きで採用されたとのこと。


一方まんまとApogeeに出し抜かれる形となったCopysoftでしたが、なかなかこちらも、したたかな連中でして、Andy氏が最初に提供したプロトタイプ(Wacky Kart)のソースコードをそのまま流用して自社の看板(?)キャラクターを用いたSkunny Kartを製作します。これはあくまでスーファミのMode7もどきを独力で実装し、一からスーパーマリオカート似のプログラム/リソースを組み上げたWackyと違い、本当の意味でのRip-offでこさえた極悪ゲームです。これについてはAndy氏はデモを作成した際、ディスクの中にご丁寧にソースコードまで添えてしまったことが最大の失敗であったと後に振り返っています。


パクリのパクリのパクリ、しかも完全クロという極悪タイトル。基本的にWacky Kartのままなので、Wacky Wheelsのようなゲームプレイの手応え(フィードバック系エフェクト等)に乏しく、なんとも退屈なゲームだ。ライバルカーは空気なので、単に一人で邪魔な障害物を避けているだけのような印象を与える。Andy氏及びApogee側が法廷での戦いを結局を起こさなかったのも、最終的にこれを競合相手と認識しなかったからだろう。しかし単調なMidiなのだがいやに哀愁を帯びておりクセになるな…


Andy氏は現在ビデオゲーム開発からは引退している模様です。当時を振り返るとPCプラットフォームではバイオレンスゲームが大ブームとなっていたが、その中で子供から大人まで(K-A)誰もがエキサイティングに遊べるタイトルとして意義のある仕事が出来たと氏は後に語っています。まぁつまりは、ありがとう任天堂ということですね!



せっかくだから最後に本家スーパーマリオカートのゲームプレイを貼っておこう、このゲームがいかに気持ちの良い体験を提供しているか以上のクローンと見比べるだけでもよく分かるだろう。


回転数にともない高音になっていくエンジン音、ライバル車を抜ける際のドップラー効果、地面のアスファルトとゴムタイヤが摩擦し、ダートの環境ではゴロゴロと砂を巻き上げる、フィードバック系SE類の豊富さは視覚効果と合わさってゲームの"手応え"を高めている。ライバルカーはトップを走るプレイヤーを執拗にマークし、調整効き過ぎな感もあるが、デッドヒートの緊張感(=ダレない調整)を上手く演出している。ワンポイントで空からやってくるジュゲムの影がコースに投下され画面の立体感を強調するなど細かい気配りも素晴らしい。



参考:
3D Realms Wacky Wheels(現在も購入可能です)
Phil’s Wacky Wheels Site(現行の熱心なファンサイト)
Copysoft(まだ生きてるんかい!)
社長が訊く「マリオカートWii」(数少ない紺野氏の貴重なお話)
Obscure Games: Skunny: Special Edition(別スタジオによるアレのRip-off)

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ugh